訪れた危機
エイムがこれを見越していたのかはわからない。
だが、しばらくするとバラバラだった協力者達も、それぞれの役割を見つけうまくまとまっていった
ケインズはワインセラーを見ながらそれなりに的を射たアドバイスをする。
マユキとミスティは意外と仲良くなり、料理作りのアイディアを出し合っている。
そして、ヨイマルは…。
「な、なんで俺だけ買い出し担当！？」
「あんた、なんもできないからよ」
マユキが言うと、ミスティは祈るように手を合わせながら
「ヨイマル君、ごめんね？助かるんだよ。美味しいまかない、作ってあげるからね」
とヨイマルに告げる。
すると、ヨイマルは照れたように笑った後
「へへへ……ぬかりなく買って来るぜ」
と言って元気良く店を飛び出していくのだった。
その姿を見送った後、マユキは呆れたように「なんて単純なヤツ……」と言おうとしたのだが……。
ダダダダ、という足音と共に先程店を出たばかりのヨイマルの叫び声が響き渡る。
「オイッ、みんな大変だ！龍がいる！しかも、一匹は不知火。倒したはずなのに……。」
その声に全員の目付きが変わる。
そして、先程までレストランの復興について語り合っていたのが嘘のように各々の武器を片手に店の外へと飛び出して行った。
外に出てみると、木々は燃やされ、森のあちこちから煙が上あがっていた。
そして、その中心には大きな咆哮を響かせる三匹の龍が。
「オオエドを荒らしまわった機巧龍もいるわ」
「なんでクリスタリムが……！？」
「料理のことだけ考えておけばいいと思ってたんだけどな……」
店の入り口にいるエイムが俯きながらポツリと呟く。
「大丈夫よ。私たちがいるんだから！」
マユキは腕まくりをしながら先導を切って飛び出して行った。
それに続くように、ヨイマル、ミスティ、ケインズも駆け出す。
(プレイヤー名)はその背中を見送りながら、エイムの言葉を待つ。
「この店を守るって決めたんだ。だから、力を貸してください！」
(プレイヤー名)は強く頷き、エイムと共に走り出したのだった。
影龍との死闘(5/11 0時公開)
マユキは刀を握ってツキヨミ之龍へと立ち向かう。
ツキヨミ之龍はオオエドの科学者が作り出した機巧で、自動追尾型の兵器も搭載している厄介な敵だ。
だが、間近でよく見ると微妙に色合いが違う。
その形は幻のようにゆらめき、実像がはっきりとしない。
(プレイヤー名)は考えた。
理由は不明だが、他の物語世界から無理やり現れたせいで、本来の形がうまく取れないのだろうか……？
他の二匹、不知火の朧龍やクリスタリムの龍についても同様だ。
「この龍は、お前らの世界にいるヤツらなんだよな？それがここに現れたってことは普通じゃねえ。空間をねじまげる禁術を使ったバカがいるな」
ケインズの言葉にヨイマルはドキリとする。
かつて戦った陰陽師は、異なる次元を繋げようとした。
それと同じようなことを行おうとする者がいるのだろうか？
「グダグダ言ってないで倒せばいいんでしょ、倒せば」
「ああ、倒せば問題ない。どうせ世界が違うやつは、長く留まることなんてできねえよ」
ケインズが言うと、マユキは機巧刀を抜き、龍のほうへと斬りかかる。
「マユキ、待って。様子が変なんだよっ！」
ミスティは大声で叫んで止めた。
龍と共に生活している経験が、彼女に「危ない」と告げている。
突如、三匹の流派それぞれ、大きく口を開いた。
マユキは龍たちの攻撃に備えて、歩幅を計算する。
攻撃をぎりぎりで避け、一刀を食らわせようとしているのだ。
だが、その口からブレス攻撃が発せられることはなかった。
代わりに地鳴りのような音が鳴り響き、森に黒い渦のようなものが発生した。
その下の地面には、ぽっかりとあいた穴があるようだ。
龍たちはそれを大きく吸い込んでゆく。
やがて、満足そうに唸るような声を張り上げると、体が強く輝きはじめる。
「やべえな。奴ら、この世界に存在する気だぞ」
「答えは同じよ。それでも倒す！」
マユキは刀を地面と垂直に構え、龍たちに向かって再び大きく踏み込んだ。
ツキヨミ之龍は、強大な兵器を身にまとっているが、弱点は腹だということは知っている。
そこを突くのは、成長したマユキにとって、そう難しい事ではない。
地面をすべるようにツキヨミの腹にもぐりこもうとした瞬間だった。
ぐねぐねと不知火の長い三つ首がマユキを狙う。
―― くっ。邪魔ね。
絡みつく長い首を何とか避けるものの、今度はクリスタリムが水晶のブレスを浴びせかける。
「気を付けてっ！」
触れたものを結晶化する輝きの吐息。
かつて龍を介して見た恐ろしい記憶が脳裏に蘇り、ミスティが叫んだ。
だが、ブレスが触れる瞬間、ヨイマルが炎を纏った符をクリスタリムのブレスにあてて無効化する。
「よっしゃあっ」
ガッツポーズするヨイマルを横目で見ながら、ケインズは十字架銃で龍たちを狙う。
ゴォオオンという音が空を走る。
しかし、弾はあたらない。
龍たちは小さく唸り、羽ばたいて距離を取った。
マユキが剣を構えて走ろうとした瞬間、エイムが叫んだ。
「ねえ、なんだろう、あれ」
最初は何かわからなかった。
むくむくとした人型の何かが、飛ぶように走っている。
よく見れば、刀を持った猫の着ぐるみだ。
その着ぐるみは、三匹の龍のそばに無造作に近寄ると、散歩でもするように龍の周りを歩いた。
殺気もはらまず、あまりに自然で、当たり前の動きだった。
時が止まった世界で、着ぐるみだけが動いているように見えた。
龍たちも、そのあまりの自然さに反応が遅れている。
刹那、着ぐるみのそばで何かが光ったように見えた。
一拍遅れて、着ぐるみを敵と判断した三匹の龍たちは、引き裂こうと爪を伸ばした。
しかし、それぞれの胴体はゆっくりと斜めにずれ、咆哮を上げながら影を飛散させて消滅した。
「やったあ、龍がいなくなったぞ！」
喜ぶエイム達だったが、一人だけ唇を真っ青にしながらガタガタと震えている者がいる。
「なぜ……こんなところに」
先程までの威勢はどこへ消えたのか。
女剣士は信じられないという顔をして呟いた。
忘れられる訳がない。
あの着ぐるみはオオエドの名物キャラクター、ニャンネコ。
そして、あの動きは自分に必殺技と恐怖を植え付けた師。
�犇鬼欝瓦�ボクデン�瓩修凌佑世箸いΔ海箸癲�
2人の剣豪(5/12 0時公開)
「ボクデン師匠……」
震えながらもマユキは着ぐるみに呼びかける。
「誰だニャ……？」
着ぐるみは頭をゆらりと振った。
体は怪しく傾いて、マユキの方を向く。
「ニャンネコを知っているのかニャ？」
「ボクデン師匠ですよね……」
その時、満月のような丸い瞳が妖しく輝いた(ように見えた)。
着ぐるみがゆっくりとマユキに近づく。
「キミは、敵かニャ？」
可愛らしく小首をかしげたが、不気味さしか感じない。
マユキの脳裏に浮かぶのは、かつてボクデンから受けた授業。
数時間で必殺技を会得できる、という驚異の内容だったが……すさまじかった。
何がかは、口が割けても言えないが……。
「私はマユキです。ほら、昔訓練所で……」
「ふむ……。わからないときは、とりあえず、痛めつけてから考えるニャ。君は強そうだニャ」
何か違和感を感じる。からかっているのだろうか？
しかし、今重要なのはそこではない。
�狡砲瓩弔韻討�ら考える��
確かにそう言ったのだ。
―― 逃げるより、戦う方がマシか。
マユキは覚悟を決め、機巧刀・天閃丸を一気に抜く。
鞘を地面に強く当て、内部の火薬を爆発させるとその勢いで地面を蹴った。
少女は一陣の風になる。
ボクデン相手に手加減なんてしようものなら命はない。
マユキは容赦なく着ぐるみの袈裟懸けにバサリと斬りつけた。
だが、手ごたえが無い。
「85点ニャね。満点が3000万点だとするニャらば」
背後から声が聞こえる。
ハッと後ろを見た瞬間、猫は笑った(ように見えた)。
急にボクデンの足下が光った。
次の瞬間、マユキは鞠のように宙を舞い、大きな樹にぶち当たった。
着ぐるみだと言うのに、巨人の並みの蹴りだ。
「いっつー……」
マユキが立てずにいると、ボクデンはくるりと回転し、エイム達へと向き直る。
「次は君らもやってみるかニャア〜」
マユキはボロボロになりながらも、ゆっくりと起き上がった。
エイムたちを巻き込むわけにはいかない。止めるなら自分だ。
「待ちなさいよ、クソネコッ。私がいるでしょっ」
「ク、ソ、ネ、コ？」
ボクデンの首が傾き、マユキの方を向く。
「ク、ソ、ネ、コといったのかニャ？」
言葉を確認するかのように、もう一度繰り返した。
ボクデンの体はゆったりとマユキのほうを向いた。
それから、コキッコキッと首の関節が鳴る音がした。
怒らせたらしい。
その時、声が響いた。
「これ以上はやめろっ。仲間を傷つけるなら僕が相手になるっ」
エイムが両手で麻酔銃を握りしめ、マユキを背後に庇うようにボクデンの前に立ちふさがった。
唇は青ざめ、足は恐怖で震えている。
「バカッ。エイム、殺されるわよっ。どきなさい！」
マユキは叫びながら、何とか立ち上がろうとするものの、身体が動かない。
「さあ、ここから消えろっ。撃つぞ！」
ガチガチと震えて音を立てる銃口で、ボクデンへと狙いを定める。
命中すれば大型の獣すら眠らせることができる麻酔弾だ、人間なら掠っただけでも効果がある。
「震えてるニャ〜」
ボクデンが首をかしげながらエイムのほうに歩き出した瞬間、声がした。
「安心しろ。こっちの銃口は震えてないからよ」
もうひとつ、巨大な十字架銃がボクデンを狙っている。
「立ち向かう勇気。それと、なかなかのルックス。二人ともそれだけで2500万点ニャ。だけど……。力無き勇気は無、意、味なのニャ〜」
気付けば、2人の銃はボクデンの手の中にあった。
「なかなか、かーっこいいニャア」
くつくつと笑いながらボクデンは言った。
心なしか、丸い瞳が輝いているように見える。
「な、ちょっと返せ、お前、いつの間に！」
「えっ…あれっ！？」
ケインズとエイムは、自身の手とボクデンを交互に見ながら青ざめて叫ぶ。
「己が銃の威力を試してみるかニャ」
ボクデンはそれぞれの銃を元の所有者へと向けて構えた。
「やめてっ。そんなことして、一体何になるの！」
ミスティの悲痛な叫びが辺りに響き渡る。
「ん〜面白いからやるんだニャ〜。やめるかどうかを決めるのはニャンネコだニャ〜」
ボクデンが十字架銃を指先でくるくると回して遊ぶような声で言った。
その時、ボクデンの後ろにある茂みが揺れた。
―― ん？
ボクデンはゆっくりと振り向いた。
「まあ……、なんだか騒がしい声が聞こえたんだが。楽しそうなことをやってるな」
黒いスーツを身にまとい、大剣を背負った少女がそこにいた。
「テルマ！？」
ミスティが驚いたように少女の名前を呼ぶ。
「……お前の声に聞き覚えがあるな。まあ、誰だか出てこない」
「ミスティだよ！」
「まあ……すまん、わからん」
ボクデンはじろりとテルマを見る。
「ニャンネコ差し置いて、何、やってるニャ？」
「ああ……すまんな」
あまりにも落ち着いた態度を貫くためか、ボクデンの声に不機嫌さが混じる。
「キミも鍛えてあげるかニャ」
「まあ……なんだ。お前は、うっとおしいな」
空気が凍りついた。
「ミスティ、あんたの仲間なんでしょう？あの子……。殺されるわよ！」
必死に叫ぶマユキを安心させるように、だがしっかりとした声でミスティが答える。
「大丈夫。テルマは強いんだよ」
ボクデンはゆらりとテルマに近づいた。
殺気を消して、抜き身の一刀を食らわせるが、テルマは身の丈よりも大きな剣でそれを受け止める。
「やるニャア……」
痺れるような一撃に、テルマは微笑んだ。
胸の奥がカッと熱くなる。
そして本能的に理解した。
自分は強敵を探していたのだ、と。
疾風のように駆ける。金髪の髪がふわりと揺れた。
それから嵐のような連撃を繰り広げる。
「甘いニャア」
ボクデンは、大剣を振るうテルマの背後にいた。
そして、マユキにお見舞いした強烈な蹴りが炸裂した。
かのように見えた。
だが、ボクデンの蹴りは空を切った。
「ニャ？」
背後に来るのを見越したように、テルマは地面を蹴りあげ、上空を飛んだのである。
そして、器用に空中で身体を回転させると、ボクデンの頭部に蹴りを入れた。
ゆらっと体が揺れるだけだったが、ボクデンのスイッチを入れるには十分だったようだ。
「たいしたもんだニャア」
ボクデンはククククッと笑った。
「まあ……。褒めていただいてありがたいもんだな」
テルマは話しながらも、表情一つ崩さず、ボクデンの胴を薙ぎ払う。
今度はボクデンは刀で防いだ。
防ぎながら、小さな体躯に似合わないその重さに驚いた。
テルマは、大量の地龍を倒し、捕えたほどの腕前を持つ。
剣の腕なら、確かにマユキも一級品だが、直情的で奇策を用いないマユキと違い、実践仕込みのテルマは荒々しく、読めない技を使う。
大剣に頼っていると見せかけ、時にはそれをポイと手から放して、嫌らしい足払いや、肘の攻撃も組み入れてくるのだ。
さすがの教官鬼も防戦一方になる。
「なんなの……あの子、ボクデン師匠を押してるわよ。ありえない！」
かつて見た事がない師の姿にマユキは身体の痛みも忘れ、声を張り上げる。
しかし、当の2人にはその声も届いていないようで
「どこで鍛えたニャ？」
「まあ……我流だ。体も小さくて不自由だろう？ちょいと頑張らないと、いけなかっただけの話さ」
「楽しめる相手に出会ったニャア……」
剣と言葉を何百合と、打ち合っていた。
不思議なことに、2人とも打ち合うたびに剣速が増していった。
集中した達人同士の戦いは、それぞれの力量を引き上げると聞くが、まさにその状態だ。
森の中に響く金属音を聞きながら、エイムたちは戦いの成り行きを見ていた。
「なんだ、ありゃ？」
ケインズが声を上げる。
空に黒い影が陽炎のように立ち昇っている。
エイム達が見守る中で、影はゆっくりと、龍の形になってゆく。
先ほど倒したはずの、龍達が再び現れたのだった。
やがて、影が完全に龍の形を象ると、それらは大きく吠えながら森を壊し始めた。
「なんなんだよ、あれは……。ぬかりなくヤバイって」
ヨイマルは懐から符を出しながら叫ぶ。
ふと、龍達はキンキンと金属音を立てて打ち合う者がいる事に気付いたようだ。
そして、自分達を視界にすら入れずただひたすらに打ち合っている2人に照準を定め一気に降下してきた。
「危ないよっ！」
ミスティが叫ぶ。
瞬間、ボクデンとテルマの剣がきらめいた。
「邪魔ニャ」「まあ……どけ」
3体の龍は、空中で細く輪切りにされ、影をまき散らして消えた。
「今の斬り方は甘いんじゃニャいかニャア……」
「まあ……、先に斬ったのは私だが」
2人はキッと向き合うと、また打ち合いをはじめる。
そして、3匹の龍の影は一定時間経つとまた同じように湧き上がる。
いつしか2人は先を争って倒し、どちらが多く斬ったかを競うようになっていった。
「あの二人、止めたほうがいいかな……？」
ミスティが言うと、ケインズが「役目終了！」とばかりに聖水の缶を開けながら答える。
「いいんじゃねーか。とりあえず、奴らに任せておけば、店が襲われる心配はなさそうじゃねえか」
「そうね。体力は底なしだしね……。でも、なんであいつらが湧き出てきたのかしら？」
「よくわからねえが、なんかヤバイことが起きてるんだろうな。まあ、いずれわかるんじゃねーの」
ケインズは2人の打ち合いを肴に、ぐびりと聖水を飲んで言うのだった。
勃発！レストラン抗争 （05/13公開）
森に発生した龍は、頼れる「用心棒」達に任せる事にして
エイム達は店で出す、コース料理の考案を再開したのだった。
エイムと(プレイヤー名)が集めたレシピを見ながら、ミスティが試作品を作っていく。
レストランの厨房からは久しぶりに、美味しそうな香りが漂いだした。
その時、レストランの扉が開いた。
「あの……。まだ店は開店準備中なんです。」
エイムは申し訳なさそうにお辞儀するが、ウェイトレス姿をした若い女性は店に上がり深々と頭を下げる。
「いえ。本日は、ご挨拶と提案に参りました」
女性の姿を見た途端、マユキの目が丸くなった。
「なっ。ネネ！なんでアンタが……」
彼女はマユキと共に特務機巧隊に所属する仲間であるはずだ。
「私を知っているのですか？あなたのことは存じ上げませんが……」
ネネはマユキを見て、妙な顔つきをした。
ボクデン、テルマ。彼女達の態度もどこか腑に落ちない点があった。
もしかしたら、元の世界の記憶を失っているのだろうか？
(プレイヤー名)が考え込んでいると、店内に妖しい煙が出現し、人のような形を織りなす。
煙が晴れると同時に姿を現したのは、コック服を身にまとい、羽根をはばたかせた美しい女悪魔だった。
「さーて。挨拶は終わり終わり。早速、提案させてもらうわよ。この店、とっとと出て行ってくれない？」
女悪魔は、長居は無用とばかりに一方的に用件だけを告げる。
「オイ、お前、突然現れて、何言ってんだよ、メフィス！」
すると、普段何が起きようとどこ吹く風といったケインズが珍しく声を張り上げる。
「誰、アンタ？酒臭いんだけど……」
「お前……常々頭は悪いと思ってたが、そこまでとはな。」
「はあ？その金髪を焦がして黒髪にするわよ？」
どこまで本気なのか……。
いつまで経っても終りそうにない言い争いに全員が揃って深いため息をついた。
そんな空気をものともせず、すっと誰かが店に入ってきた。
「ふーん。たいして面白みもない店だな」
腰まで伸びた黒髪を無造作に縛った、目もとの涼しげな男が、値踏みするように店を見回しながらつまらなそうに吐き捨てる。
服装を見ると、どうやらバーテンダーのようだ。
「スピーナっ！？」
ミスティが驚き声を上げる。
「あー？お前、俺のこと知ってるのか？ゴチソウさんだが、俺は知らねえ」
やはり全員、元の世界であったことを覚えていないようだ。
「知ろうが、知るまいがどうでもいいのよ！私たちのレストラン、随分、繁盛していてね。ここに支店を作ろうかなーって思ってるの。内装の雰囲気はいいから、あとは出て行ってくれるだけなんだけど」
メフィスの一言に、エイムが吠える。
「嫌だね。ぜーったいに出て行かない」
「そう……。それなら仕方ないわね。じゃあ、私たちと勝負するってのはどう？優れた店だけが残る。それでどうかしら？」
「わかった。それでいいよ！」
エイムはぐっとメフィスたちを見据えて叫ぶのだった。
困難な呼び込み(05/15公開）
ここで話は少し遡る。
リアンとツブテは、レストランの内装を見直すため店内に足を踏み入れた。
内部は茶色を基調とし、季節の花や、リアンが描いた絵が彩りを添えて質素には見えぬよう落ち着いた空間を演出している。
中でも目を引くのが、入り口から見える森の景色だ。
街からレストランへ続く道の左右は、色とりどりの花が目を楽しませ
最後は、花のアーチを潜りレストランに到着する。
リアンはひとしきり店内を見回した後、暫し考え込み口を開く。
「あっ……。やっぱりダメね」
先程まで勢いに押されていたツブテもリアンの言葉に唖然とする。
「どうしたのさ？どうしたんだ？」
まさか、まだ不安な点でもあるのだろうか。
「だって、レストランのメインは料理でしょ？なら、内装は料理に合わせて決めた方が絶対いいに決まってる。…うん。やっぱり、そうよ」
と1人納得すると、今度は大きく欠伸をしてツブテの毛を撫で始める。
ツブテはリアンに聞こえないよう小さくため息をついたのだった。
気まぐれは自らの当主で慣れている。気にした方が負けだ。
一瞬で気持ちを入れ替えると、ツブテも小さく欠伸をもらした。
「ツブテ。やることがなくなったらなくなったで、ちょっと暇じゃない〜？」
「うん、暇だ。暇すぎるぞ」
「それなら、お客をゲットしにいきましょうよ」
「どうするんだ？どうやるんだ？」
へっへーと、得意そうにリアンは紙の束を取り出した。
「じゃーん。私特製のチラシだよー」
単色で描かれた簡単なものだが、見ているだけで暖かそうな店内の様子が伝わる。
しかも、このチラシを持って来店した人には特製の一品もサービスされるという文字もある。
「絵うまいなー。すごいな、すごいぞ」
さすが画家というように、ツブテはくるくると回りながら褒め称えた。
「どうもね。でも、受け取ってもらうには看板犬の力がいるんだから頼むわよ」
「おいっ。犬じゃない、犬じゃないぞ」
「わかったわかった」
賑やかにはしゃぎながら、1人と1匹は森を抜けると
森と街を繋ぐ吊り橋を渡り、ティラトの街にある大通りを目指した。
まさか自分たちがいない間に、3匹の龍が出現し、更に剣士2人の大乱戦が巻き起こっているとは露とも知らずに……。~
大通りにある街灯の下に立ち、リアンが呼びかけようとした瞬間、通行人が次々と近寄ってくる。
「リアンさんだー、カワイイ。サイン貰えますか？」
「先生！聖堂の絵にいつもお祈りさせていただいております」
「リアンせんせー、今度、学校にもきてー」
どうやら街の人々はリアンをよく知り、親しんでいるようだ。
リアンは、次々と集まってくる人々に笑顔で対応しながら、目で合図を送る。
そして、ツブテが風のように走り、人々の手にリアンが作ったチラシを忍ばせる。
「なんだ、これ？」
急に手に現れたチラシに人々はざわつき始める。
その様子を見て、リアンはこぼれそうな笑顔を浮かべ「注目〜！」と手を上げると、ここを訪れた目的を語り出す。
「実は私が内装をデザインしたお店があるんですっ。森にあるレストランなんですけど、近日リニューアルオープン致しましたぁ！」
その声に、人々は「一体どんな店だ」と興味津々に次々と手元のチラシを覗き込んだ。
「なんだ……あの呪われた店か」
ふいに1人が顔を曇らせ、呟いた。
たちまちに人々からは笑顔が消え、手に取ったチラシを捨てる者さえ現れた。
「違う、エイムの店は呪われてなんかないよ！ねえ、お願い、一度だけ、一度だけチャンスをちょうだい。来てくれればわかるって！」
リアンの悲痛な叫びに耳を貸す者は誰もおらず、冷やかな顔をして立ち去る。
あげく、リアンに「あんな店に関わるのはやめなさい」などと説教するものまで出る始末だ。
リアンは歯を食いしばり、街の中心部から遠ざかるように走り去って行った。
「きっつー、って感じよね」
あの後。
街の中心部から離れた場所を隈無く歩き回り、どうにかチラシを配りきったリアンは、街の端まで来るとドサッと地面にへたり込んだ。
ツブテはそんなリアンの足をスリスリとこすり、慰めながら尋ねる。
「なあ、エイムの店、どうしてあんなに嫌われてるんだ？」
その問いに、リアンは困ったように眉をひそめてしまう。
しかし、話すべきかどうかを迷うかのように視線は宙を彷徨っていた。
そして、ジーッと己を見つめるツブテに根負けしたのか、小さなため息をついた後
「そうね……。誤解されたくないからツブテには話しておこうか」
と前置いて、ぽつり、ぽつり、と語り始めた。
それは、暖かくも悲しい昔話だった。
店に起きた悲劇(05/18 公開)
レストラン抗争の結末(05/20 0時公開)
支配人の戦い(05/20 0時公開)
テミスの試練(05/21 0時公開)
眠りの森のフィンラス：フィンラス(グルメメダル10万枚達後解放）
カイルーンは森の脇道を進み、古びた大樹が目に入ると足を速める。
大樹の前にたどり着くと、両手をそっと樹に当て、力を込める。
「目覚めなさいフィンラス……」
カイルーンの両手がぼんやりと輝き、樹がゆっくりと二つに割れる。
中からは、分厚い本を胸に抱き、目を閉じた少女が姿を現す。
カイルーンは再び呼びかけた。
「フィンラス……さあ、今こそ、あなたの力が必要な時です」
カイルーンの呼びかけに、フィンラスと呼ばれた少女は閉じた目はそのままに、桃色の唇を開き、ぽつぽつと何かを呟き始めた。
「預言しましょう。革靴が美味しい季節です。よく煮た後で、エクレアをつぶして靴の中に入れて……ぐうう」
「目覚めなさいフィンラス……」
カイルーンは目を細めて言った。
「預言しましょう。ラムネの玉を取り出し、豚の鼻にいれなさい……。ムニャることになりましょう」
それからフィンラスは歯ぎしりをはじめた。
その美しい容姿から発せられているとは到底思えない音が辺りに響き渡る。
カイルーンは小さくため息をつくと、大声で叫ぶ。
「いい加減起きなさいフィンラス！」
&color(thistle){「ふわっ！」
フィンラスはようやく固く閉ざされていた目を開いた。
最初に目に入ったのは、怒り顔で佇む自らが所属する�狄梗蕕觴圻當垢世辰拭�
「カイルーン様。どうしたのですか？」
「シルキィが森に不思議な穴を発見し、私の刀も共鳴している。それゆえに聞きにきたのです。あなたの預言書にはどんな未来が書かれているのかを。」
フィンラスは秘匿の預言書を持つ�狄梗蕕觴圻瓠�
近い未来に訪れる危機を読み取る力を持つが、強大な力を必要とするため、普段はこうして森の奥で眠りについている。
カイルーンの言葉に頷くと、静かに本を開き、瞑想した。
ふわりとペンが浮き、白紙のページに、文字が書かれてゆく。
それからフィンラスは静かな声で預言を読み上げた。
�猴瀚召鯤�えた赤き蛇が鎌首を上げた時
読まれたはずの物語はほどかれて
悪意の種に姿を変える
種は育ち、絶望の果実をつけるだろう
だが、空腹を埋めてくれる店だけが
その実を調理できるかもしれない��
預言を読み上げた後、フィンラスは平和そうな寝息をたてて再び眠りについてしまった。
カイルーンは、預言にあった「空腹を埋めてくれる店」について考える。
全ては分からないが、森で起きようとしている�牴燭��瓩鯔匹阿砲呂△離譽好肇薀鵑浪�してはならないということ。
エイムたちを退去させるのではなく、店を守護するように命じるため、カイルーンは来た道を引き返し始めたのだった。
職を求めて別世界：テルマ・バウンサー（グルメメダル25万枚達後解放）
風の吹く草むらで大剣を担いだ少女が剣技を磨いていた。
彼女の名はテルマ。
かつて、イスパロッサという大国で名をはせた剣豪である。
File not found: "prologue_11.gif" at page "イベント/EV41"[添付]
彼女は、一見不釣り合いに見える大剣を手に昼夜問わず修行をしている。
目をつむり、風の流れを感じ、それを細く切り裂いていく。
見えない風を知覚し、剣の刃に気を込めることでそれが可能となる。
切り裂かれた風が、今度は鋭い追い風となり、草むらを刻む。
幾千にも刻まれた草は風に交じり、今度は緑の尾として周囲を駆け回った。
―― まあ……、若いと修行に無理がきくな。
そんな事を考えていると、側で修行を見守っていたスライヌが「ワヌワヌ」と吠えた。
孤独な時も、どんな時も、そばにいてくれる可愛らしい相棒だ。
動物のように見えなくもないが、その身体はスライムのようにグニャグニャとしている。
それ故に、スライヌと名付けた。
テルマは、そっと剣を降ろすとスライヌへと向き直る。
「まあ……、飯にしようか」
「ワヌワヌ」と嬉しそうな声が聞こえた。
草原に建てた小さな小屋に戻り、食料を探した。
だが、パンも野菜も切れていた。
自分は粗食でも我慢できるが、スライヌには多少でもいいものを食べさせたい。
おいしいものを食べさせると体がつやつやする。
それを撫でる時、テルマは至福を感じるのだ。
かつて冒険で出会った料理上手な少女の店に足を運ぶという手もある。
だが、出来るだけあのキラキラした瞳をみたくはない。
どうもあの純粋さはテルマには居心地が悪かった。
テルマは暫し悩んだ後、普段自身が寝る時に使用している部屋へと移動する。
そして、小さな棚を漁り現在着ている服とは別の服を取り出した。
それは、黒いバリっとした服だった。
この服で街に出れば護衛の仕事をもらえる。
テルマの名前は有名なので、斡旋所に行けば、すぐに声がかけられる。
仕事内容は、要人の護衛だったり、パーティで無粋な輩が出ないように務めたりするだけ。
ただ、有名な剣豪である彼女が立っているだけで、大事が起こることはほとんどない。
彼女のひとにらみでよからぬことを企む連中は後悔の涙を流すだけだ。
この日も、ダンスパーティの護衛の仕事にありつけた。
すっかり日も暮れ、冷えた三日月が昇っている。
テルマはスライヌと共にあくびをかみ殺して立っていた。
屋敷では金持ちのダンスパーティが繰り広げられている。
朝日が昇るまでたっていれば結構な額が手に入る。
―― 楽なものだ。
だが、日々の鍛錬を怠らない彼女には物足りなくもあった。
―― 今夜こそ、盗賊でもでないだろうか？
護衛の任に付きながら、いささか物騒な考えだが
彼女は、自らの剣技を試す機会を欲していた。
その時、庭先でウウウウウという唸るような奇妙な音聞こえた。
テルマは、ヒュンと大剣をかつぎ、音の近くに行ってみる。
そこにはポッカリと大きな穴が空いていた。
スライヌと共に、穴を覗いた瞬間、物凄い力が彼女を穴の中へと誘い込むように引き寄せた。
大剣を地面に刺して、何とか踏ん張ったものの、スライヌが先に落ちてしまう。
「スライヌー!」
暗い闇の中、愛する相棒の姿は見えない。
テルマは、スライヌを追い自らも穴に落ちることにした。
気がつけば、森の中にいた。
だが、自分は何者なのか思い出せない。
どこから来たのか、何故身の丈以上の大剣を手にしているのかスッパリと記憶から抜けていた。
だが、この大剣を扱えないと言う気は全くしない。
むしろ、その扱いだけはすぐにでも思い浮かぶ。
剣を握ると、力が湧いてくる。そして……
ぐきゅるぅぅぅぅ。
辺りが静かな分その音はとても大きく聞こえた。
―― まあ……。腹が減ってはなんとやらと言うしな。
ふと視線を下へと落とすと、自分が着ている服が目に入る。
中々にしっかりとした服だ。
この格好なら、どこに行っても話は聞いてもらえるだろう。
とりあえず、誰か人を探さなければ。
彼女が歩き出すと、すぐ後ろを、ぴょこぴょこと追ってくる柔らかい生き物がいる。
「ん？お前は、なんだ？」
見つめるとつぶらな瞳で「ワヌワヌ」と元気よく鳴いて、すり寄ってきた。
良さそうな奴なので、テルマはお伴に連れて行くことにしたのだった。
| 
prologue_07.gif
03.gif
01.gif
prologue_06.gif
prologue_05.gif
prologue_04.gif
prologue_17.gif
prologue_16.gif
prologue_15.gif
prologue_14.gif
prologue_03.gif
map.gif
prologue_13.gif
prologue_12.gif
prologue_02.gif
prologue_01.gif
main_header.gif
prologue.gif
![[添付]](http://cs.gamedb.info/wiki/?plugin=attachref&attachref_no=19&attachref_opt=.%2Fprologue_11.gif%2C50%25&refer=%A5%A4%A5%D9%A5%F3%A5%C8%2FEV41&digest=f18dbb6069facc52bc0b0601ac0d32f3){kind=link}
