碧き境界の継承者 (ID10454)
説明
誰かが記した本のようだ……
内容
1ページ目 (ID87474)
これは、とある船の旅を記した、航海日誌。^
<目次>
≫27日目(2ページ目へ)
≫28日目(3ページ目へ)
≫29日目(4ページ目へ)
≫30日目(7ページ目へ)
≫31日目(12ページ目へ)
≫32日目(16ページ目へ)
≫33日目(20ページ目へ)
≫34日目(24ページ目へ)
≫35日目(28ページ目へ)
≫36日目
≫37日目
≫38日目
≫39日目
≫月のない夜
≫全滅
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2ページ目 (ID87476)
27日目
白い雲が、水平線の向こうから煙のように立ち上がっている。
のどかとも言える風景だ。今日も大きなトラブルもなく、船は進む。
と言うよりも、『今日も何も見つからなかった』という方が適切か。
事故はないのが一番だが、成果もないのにはそろそろ飽きた。
おかげであの人の機嫌も悪い…。
ほら、今も甲板で大きな声を出してる。あの人はホント、いつでも元気だ。
ん?「船が見える」って声が聴こえるな。
変化は大歓迎、ちょっと見てくるとしよう。
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3ページ目 (ID88018)
28日目
今日も船は水平線の彼方を目指して進んで行く。
別に彼方を目指したいわけではないのだが、もう何日も水平線しか見てないから、そりゃあ早く島のひとつでも見せてくれと祈りたくもなる。
昨日見つけた船、あれからなかなか距離が縮まらない。
最初は向こうが逃げようとしているのかと思ったが、船首がこちらを向いているところを見る限り、どうやらそういうわけでもなさそうだ。
じゃあなんなのかって?こっちが聞きたいくらいさ。
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4ページ目 (ID88468)
29日目
魔の海域、と呼ばれる海がある。
そこには「大いなる力を秘めている」と伝えられる秘宝が眠っており、無数の番人が守護しているといういわれだ。
それは伝承の中の海であり、その居場所を知るものは誰もいなかった。
伝承自体を正しく知っている者さえ、ほとんどいない。
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5ページ目 (ID88469)
ただ、その場所ではいろいろと不思議なことが起こるらしいってことはみんな知ってる。
だから「船の距離が縮まらない」なんてことも不思議じゃない。
それはつまり「ここがお目当ての場所だった」ということだ。
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6ページ目 (ID88470)
あの人はその閃きに、嬉しそうに笑ってたよ。
確かに目的の場所にはたどり着いた。
でもどうする?進むことも戻ることも出来ないんじゃ、打つ手なしだ。
ところがあの人には何か考えがあるみたいで、「任せときな」って自信たっぷりの目で言ったんだ。
昔から、可愛い顔して妙に人を安心されるところがある。
だから誰も不安なんて感じてないさ。きっと明日には何かが始まる気がするんだ。
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7ページ目 (ID88970)
30日目
昨日の予感は正しかった。
なぜか今日になり、急に船との間が縮まるようになったのだ。
やがて、俺たちの船に乗り移ってきたのは、一風変わった集団だった。
見た感じ船乗りには見えない。積み荷だって船旅をするには少なすぎる。
となると、海賊の襲撃にでもあったどこかの商船の用心棒といったところだろうか。
護るべきものを護れず、自分たちだけ逃げ延びたのだとすれば……。
あの人――“フレイヤ”も同じことを思ったのだろう。
「……そういうの許せないんだよね」
漏らした言葉を俺だけは聞き逃さなかった。
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8ページ目 (ID88971)
「なんにせよ運がないね、アンタたち」
フレイヤは、この海が呪われていることを奴らに告げた。そして、このままではどこにも辿り着けないであろうことも。
「でも、この船ならアンタたちを無事に陸地へ届けることが出来るよ。なぜかは秘密。そして、当然ながらタダじゃない」
そういうと、ちらりと奴らの荷物を一瞥した。
奴らは自分たちの荷物を……
・素直に見せた(9ページ目へ)
・かなくなに見せようとしなかった(10ページ目へ)
9ページ目 (ID88973)
「はぁ? りんごに……ろうそくに……しおり? アンタ、こんなものでどうやって海を渡るつもりだったの?」
あきれたように、フレイヤは大げさに空を仰ぐ。
「こんなものもらったって、何にもなりゃしないよ。やれやれ、また海の上に逆戻りしてもらうっていうのも、心が痛むんだけどねぇ……」
だが、その後に続いた言葉は予想外のものだった。
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10ページ目 (ID88974)
「なんだい、大事そうに荷物を抱えちゃって。アンタ、自分の立場わかってんの?」
フフッ、とフレイヤは不適に笑う。
「威勢がいいのはキライじゃないけど、だったら他に何をしてくれるのか、教えてもらいたいもんだね」
そして、その後に続いた言葉は予想外のものだった。
次へ(11ページ目へ)
11ページ目 (ID88975)
「まぁいいや。アンタ達、うちの船でしばらく面倒見てやるよ」
突然の提案に、奴らは状況が全く飲み込めてないようだ。
なんせ、俺を含むほとんどの船員も唖然としたのだから、当然といえば当然だが。
「この船じゃなければ、この海から抜けられない。それは本当の話さ。だからついてきな。他に選択肢はないよ」
でもね、と続ける。
「代価を支払えないヤツと、働かないヤツには食わせない。それが船乗りの掟。だから働いてもらうよ、しっかりね」
働くっていったい何をすれば……そんな疑問と不安が面白いくらいに顔に出てきたもんだから、フレイヤは意地悪そうにフフッと笑った。
確かに、奴らは運がないみたいだ。よりによってこの船に拾われてしまったのだから。
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12ページ目 (ID89396)
31日目
「で、アンタたちは結局、何者なの?」
食事の席で、フレイヤが奴らに聞いた。
昨日、奴らを新入りとして面倒見ると言うや否や、まるで準備は整ったと言わんばかりに、伝承の龍が姿を現した。
その存在感に俺たちは一瞬ひるんでいたが、新入りたちはなんと「慣れている」と言わんばかりに素早く龍へと立ち向かっていったのだ。
こうなると、ただの商船の護衛とは思えない。ましてやそこらの海賊に負けるなど考えられなかった。
新入りたちはフレイヤの問いかけに……
・「本の世界を旅してまわっている」と答えた(13ページ目へ)
・「ただの旅人だ」と答えた(14ページ目へ)
13ページ目 (ID89397)
「本の世界……って、さっぱり意味わからないんだけど?」
首をかしげるフレイヤに、新入りたちはこれまでどんな本の世界を旅してきたのかを、語ってくれた。
「……ふぅん」
隣に座っている俺にこっそり耳打ちする。
「なんだか、変わった奴らだね」
確かに。本の世界と言うわりには、そのどれもが聞いたことのない話だ。だいたい本の世界って何なんだ。突拍子もなさすぎて、反応すらできなかったぞ。
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14ページ目 (ID89398)
「へぇ、どんなところ旅してきたの!?」
目を輝かして尋ねるフレイヤに、新入りたちはこれまでどんな旅をしてきたのかを、語ってくれた。
「それって本当の話? なんだか、おとぎ話みたいだね」
腑に落ちない顔をしてフレイヤが言う。
確かに、新入りたちの話は不思議で突拍子もなかったが、作り話だとすれば、その想像力はたいしたものだった。
次へ(15ページ目へ)
15ページ目 (ID89399)
そんなことを言いながらも、フレイヤはますます新入りたちに興味を持ったようだ。もっと話を聞こうと、身を乗り出す。
だが――
「龍が出たぞ!」
船員の声で、空気が変わる。話はそこで中断し、フレイヤは勢いよく立ち上がると、すでに気持ちは戦闘へと向いていた。
「話はまたゆっくり聞かせてもらうよ。今は、昔のおとぎ話よりも目の前の伝説だからね」
水しぶきをあげて首をもたげる巨大な影に、フレイヤは誰よりも早く駆け出していった。
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16ページ目 (ID89815)
32日目
今日、立ち寄った島で不思議な鳥を目撃した。その島に生息いている生き物かと思いきや、どうやらそうではないらしい。
ふわふわとした毛並みに、青い瞳。いや、まぁそれだけなら別に、という感じか。
それは、まるで船乗りを気取るかのように、帽子と服を身につけていた。
まだ子供なのだろうか。せわしなく歩き回っては、つまづいて転んだりしていた。
だが見た目に騙されてはいけない。
可愛らしい外見とは裏腹に、ちょっとでも手を出そうものなら容赦なくクチバシを突き出すような、凶暴性も持ち合わせていた。
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17ページ目 (ID89816)
可愛い外見とは裏腹に、ってとこはフレイヤと同じだな。
鳥を見つけるや否や「かわいい!」なんて言っちゃって、捕まえようと必死に追いかけはじめちまった。
そういうところ、まだ小娘だなぁと思うよホント。
「ほら!そっち行ったよ!」
追いまわされた鳥が、新入りたちの方へと走っていく。フレイヤの呼びかけに対して新入りたちは……
・鳥を捕まえようと身構えた&CLOR(BLUE){(18ページ目へ)};
・慌てて横に飛び退いた(19ページ目へ)
18ページ目 (ID89817)
「ピキュッ!」
甲高い鳴き声をあげ、鳥が高く飛んだ。新入りたちは驚き、空を見上げる……が、見上げたその顔に鳥が落ちてきた。
そいつは、たまらずその場でひっくり返るが、鳥は綺麗に着地を決めると、そのまま一目散に走っていってしまった。
体型からしてまさかとは思ったが、案の定飛べはしなかったか。
フレイヤは、よっぽど目の前の珍事がおかしかったらしく、腹を抱えて笑っていた。
それは誰かのための作り笑いではなく、久々に見る、心からの笑顔に見えた。
少し悔しくもあるが……俺は、新入りたちに少しだけ感謝した。
次へ(20ページ目へ)
19ページ目 (ID89818)
遮るもののない道を、鳥が一目散に走って行く。
ものすごい早さだ。あの身体の小ささと足の短さで、どうしてあんなにもスピードが出るんだ?
フレイヤは追いかけるのをあきらめ、その後ろ姿を見送った。
「ちょっとー。なんで避けたのさ!?」
じろりと抗議の視線が向けられると、新入りたちはバツが悪そうに、その視線を受け流していた。
「わかった。アンタたちまだ新人だし、海賊流のチームワークっていうのをきちんと教えてやる必要がありそうだね。次にあの鳥と会うときの為に、特訓するよ!」
チームワークなんて言葉、お前知ってたんだな……思わず口から出た言葉のせいで、今度は俺が追いかけられるはめになってしまった……。
次へ(20ページ目へ)
20ページ目 (ID90434)
33日目
俺たちは“異変”に気づいていた。
伝承の海『魔の海域』。そこには秘宝を護る守護者がいるという。
その守護者とは、いまさら言うまでもなく、あの龍たちのことだろう。
だが、おかしい。龍の出没範囲が、明らかに広すぎる。
例えば、この辺りには人が住む島もある。その近くさえ、龍が姿を現してるのだ。島の人間に話を聞けば、そんなことはこれまでに一度もなかったというのに。
未だつかめぬ秘宝の手がかり。この海に起きている異変に、ヒントがあるのかもしれない……。
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21ページ目 (ID90435)
それにしても俺たちの船の人間は皆、たくましい。龍との戦いにも慣れ、進展のない日々でも心を乱さない。
龍を倒すその度に、宴会をしたがるところが問題と言えば問題だが、それもまたこの海で正気を保つには有効か。
おそらく新入りたちの存在が大きいのかもしれない。
まだ数日の付き合いではあるが、新入りたちはすっかり皆からの信頼を得ていた。それだけの働きをしてくれているのだから、当然と言えば当然だ。おかげで何人の仲間が助けられたことか。
今日もまた、新入りたちは宴の……
輪の中に入り、皆と談笑していた(22ページ目へ)
輪から少し離れ、皆を眺めていた(23ページ目へ)
22ページ目 (ID90436)
「なんだかすっかり人気者になっちまったねー」
フレイヤがやってきて、俺の隣に腰をおろした。
いつもなら一緒になってはしゃいでいるというのに、今日はこうして輪の外にいるのは、さっきまで、ひとり甲板に出て海を眺めていたのと関係あるのだろうか。
「無理矢理巻き込んじゃったけど、正解だったって思ってる。これなら、きっと……」
真剣なまなざしで新入りたちを見つめ、独り言のように漏らした。いや、その瞳はここではないどこかを見ているのだろう。それは悲しい過去か、苦難の未来か……ただ揺るぎない決意だけが、その瞳に宿っていた。
次へ(24ページ目へ)
23ページ目 (ID90437)
「たまにはみんなといっしょに騒いだらどうなのさ?」
フレイヤが奴らの隣に腰をおろす。
そういうフレイヤも、今日はイマイチ気が乗らないのだろうか。さきほどまで、ひとり甲板に出て海を眺めていたのを俺は知っていた。
「無理矢理巻き込んじゃって悪かったね。これでも多少は気にしてるんだよ?」
そう言って、はにかむ。新入りたちは「気にしてない」といったそぶりで、それを見てフレイヤがまた笑った。
「巻き込んじまったのはアンタたちだけじゃないか。この船の連中、まるごとだね……」
宴はまだまだ終わる気配がない。陽気に騒ぐ船員たちを見つめるフレイヤの瞳に、揺るぎない決意が宿っていた。
次へ(24ページ目へ)
24ページ目 (ID91009)
34日目
「あー、もう海に飛び込んじゃおうかな」
フレイヤはそうぼやくと、海の底を覗き込むように身を乗り出した。
風のない午後。
太陽はちょうど空の頂点に鎮座して、意地悪く俺たちにプレッシャーをかけている。
天上に手が届くでもない矮小な存在の俺たちには、うらめしく見上げることしか出来ないのがもどかしい。
フレイヤに目を戻すと、身を乗り出すあまり足が床についていない。本当に飛び込みかねない雰囲気だ。
いつどこで龍と遭遇するかわからないとなると、さほど軽装でもいられず、その緊張感とこの暑さとで、フレイヤは我慢が効かなくなってきた。
次へ
25ページ目 (ID91012)
「そうだ! 近くの島に寄って水浴びしよう! 面舵いっぱい!」
しまいには思いつきで適当なことを言い出しやがった。
だがそれもこの船の連中はすっかり慣れっこだ。そんなわがままは聞こえなかったフリをして、淡々と各自の持ち場を守っている。
だから、矛先は自然と新入りたちに向かう。
「ねぇ、アンタたちは水浴び賛成だよね!?」
聞かれた新入りはその問いに……
・もちろん、と答えた。(26ページ目へ)
・聞こえないふりをした。(27ページ目へ)
26ページ目 (ID91013)
「でしょー!? ほらほら、やっぱり歴戦の勇士さまともなると、アタシといっしょで心に余裕があるのよ」
ひとたび味方を見つけると、こちらが折れるまで延々と主張するのがフレイヤだ。
それは皆もわかっていたから、すでにあきらめた顔で、船を動かす準備をし始めている。
フレイヤは無邪気に新入りの肩を抱き、ささやかな勝利を共に喜んでいた。
新入りたちには「フレイヤのわがままを真に受けるな」ときびしく言っておく必要がありそうだ……。
次へ(28ページ目へ)
27ページ目 (ID91014)
誰からも相手にされず、フレイヤはふてくされてしまった。
「ねぇ。新入りなんだから、ちゃんとリーダーの言うことは聞くもんだよ?」
いくら言っても無駄と悟ったのか、その不満を新入りたちにぶつける。そして
「チームワークを乱した罰として、旅の話を聞かせなね。ちゃんと面白いやつ」
と、有無を言わせず船室へと新入りたちを引き連れて行ってしまった。
静かになった甲板……実は一番助かっているのは、龍退治なんかよりも、フレイヤの相手をしてくれていることではないだろうか。
船員の心はいま、同情と哀れみ、そして安堵の気持ちでひとつになっていた……。
次へ&COLO(BLUE){(28ページ目へ)};
28ページ目 (ID91433)
35日目
低いうなり声が海面を伝わり、船を震わせる。
それが『合図』であることは、皆、すでに身に染みてわかっていた。
「来るよ! 散りな!!」
フレイヤの号令で、龍の正面で対峙していた船員たちが左右ばらけた。
退避が間に合わないと判断した何人かは、ためらわずに海へと飛び込む。
次の瞬間、龍の喉が大きくふくらんだ。船員たちに緊張が走る。
龍が、自らの体内で練り上げた球状の異物を甲板へと吐き出す。強烈な衝撃を受け、船が大きく揺れた。
龍族には『ブレス』と呼ばれる力が備わっているという。
その形は火炎であったり吹雪であったりするらしいのだが、この場所の守護者が放つブレスは、ひと呼吸でも吸ってしまえばすぐに身体が痺れて動けなくなる、恐ろしい毒の息だった。
次へ
29ページ目 (ID91434)
最初のころはこの毒の息に手こずったものだが、今ではだいぶ見切れるようになってきた。
毒の息が霧散していくのを見はかり、船員たちが体制を整えて矢を放ち、剣をふるう。
そこから俺たちが勝利を手にするまで、さほど時間はかからなかった-----。
「しっかし、こんなにもいるんだね守護者ってのは」
負傷者の確認をし終え、フレイヤが戻ってきた。
次から次へと現れる龍。
確かに、これほどの数がいるとは思っていなかったし、こんなに遭遇する羽目になるとも予想していなかった。
もしかして、新入りたちがあの龍を呼び寄せていたりして名。
俺がそんな他愛もない冗談を口にすると、新入りたちは……
・そうかもしれない、と答えた。
・フレイヤが呼び寄せているのでは、と答えた。