Requiem (ID7802)

説明

誰かが記した本のようだ……

内容

1ページ目 (ID64859)

お気に入りの場所を見つけた!

ここなら誰にも邪魔されずに過ごせそう。

いつか、今のことを思い返せるようになった時のために、日記を書いておこうかな。

2ページ目 (ID70372)

これから、今考えていることなんかを書いていこうと思う。

前に授業で習った、アンネの日記、だっけ。

誰にも言えない不安を、手紙の形式にして残していたっていうヤツ。

きっと、同じ。

いつか、誰かが気づいてくれるといいな。

3ページ目 (ID74436)

この図書館には好みの本がたくさん!

題名だけ眺めていてもドキドキしちゃうよ。

本を読んで、その世界を想像している時間だけがホンモノ。

その時間だけは、色んなことを忘れていられるから。

4ページ目 (ID74437)

最近読んだのは、永遠に冬が続く世界の物語。

一族の仲間が居なくなってしまって、一人残された勇者が、別の世界からやってきた英雄と仲間を救い出したお話。

誰かのために頑張るって、なんだか羨ましい。

でも……

誰にも褒めてもらえなくても、その勇者は戦うことができたのかな。

助けてくれてありがとう、って言ってもらえなくても、平気なのかな。

もしかしたら、居なくなってしまった仲間ってのは、その勇者を残して、こっそり楽しく別の場所に旅したのかもしれない……なんて、考えちゃう私は、きっと英雄にはなれないんだ。

5ページ目 (ID74438)

前に読んだ本にも、似たような話があって。

隊からはぐれてしまって、別の場所で独り古代兵器と戦う兵士の物語。

誰かに探してもらいたいって、寂しくなかったのかなぁ。

その本の中では、兵士は時を救った英雄として後世にまで語り継がれるようになったって書いてあったけれど、私の知りたいことは、そんなキレイゴトじゃない。

私は、自分のいる場所で、誰かに「やったね」って言ってもらいたいよ。

6ページ目 (ID74439)

そうだ、あの兵士の話。

怪談みたいにしてみんなに話してみようかな。

暗くなった教室に、部隊に戻れなくなった兵士が彷徨いこんでくるって。

音楽室の肖像画が夜中に笑うとか。

実験室の人体標本が動くとか。

それといっしょ。

自分がいなくなった場所で、誰にどんな話をされているのかなんて、誰にもわからないんだから。

追加されたページ(1) (ID74441)

今日も、図書館でひとり。

機能まで考えていた作り話も、お話するのはやめた。

本人のいない場所で、いない人の話をするなんて、それじゃ結局同じだもの。

投げた言葉は、切れ味の鈍いブーメランみたいに、いつか自分に返ってきちゃうよ。

言葉って、怖い。

もしも、私に、言葉がそのまま武器になるような力があったら何に使うかなー。

……って、こんな事ばっかり考えているから、きっと明日もひとりでお弁当を食べるんだろうな。

追加されたページ(2) (ID75509)

少し前の私なら、図書館に来るなんてことはなかったと思う。

授業と部活と、友達とのくだらないお喋り。

それでも、あたりまえの毎日なんて、続かない。

ほんの些細なきっかけで、世界は簡単に変わってしまうよ。

部活にも顔を出さない私のことを、みんなは何て言っているんだろう。

……考えるのも、なんだか怖い。

追加されたページ(3-1) (ID77083)

図書館に通っていると、気づくことが多い。

本を読んでいるひと、宿題をしている人……あたりまえの事かもしれないけど、ここではみんな、個人行動なんだ。

なかでも、最近よく見る顔がひとり。

思いつめたような顔をして、きっと私も誰かから見たら同じように見えるんだろうな。

だからかな、なんだか気になる。

誰にも邪魔されない場所を探していたはずなのに、それでも他人を気にするなんて、なんなんだろう。

追加されたページ(3-2) (ID77085)

明日は学校に来なくていい。そう思うだけで、とても気が楽。

みんなと顔を合わさずに済む言い訳を考えなくていいから。

あの子も同じ気持ちで過ごしているのかなぁ。

だとしたら……

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明日は学校に来なくていい。そう思うだけで、とても気が楽。

みんなと顔を合わさずに済む言い訳を考えなくていいから。

あの子も同じ気持ちで過ごしているのかなぁ。

だとしたら……

追加されたページ(4-1) (ID77087)

その日もやっぱり普段と同じように緊張した顔をして、あの子は来ていた。

あの表情。

話しかけてみようと思ったのは優しさ……なんかじゃない。
多分、好奇心と仲間意識みたいなものを勝手に感じたせいだ。

「あの……」

その時、自分の声が震えていたと思う。

すると、突然、あの子は立ち上がって、顔をすっと近付けてきた。

追加されたページ(4-2) (ID79769)

怒られる!と、身構えたのは、きっといつもの癖。

勝手に仲間意識なんかを感じて話しかけるのはやっぱりいけなかったんだ。

後悔する私に真剣な瞳を向けて問いかけてた。

「ひょっとしいて。今、話しかけました?……なんか私、変、でした?」

……え?

「えっと……ううん。大丈夫」

絶対変だったけど、社交辞令の笑顔で否定した私。

「良かったぁ」

落ち着いたのか、いつも見る思いつめた表情と違って急にあどけない顔になる。

「寝ちゃってたんですよぇ」
「寝っ、寝てた?目、開いてたけど」
「私、図書館来ると、3割の確率でやっちゃうんです……」

……何が?3割?

「うまくいくと閉じてるんだけど。惜しいですねぇ」

変わってることは間違いないけど、話しやすいいい子だと思った。
少なくてもあいつらより。

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「今ですね、千年咲く桜の夢を見ていたんですよぅ……」

千年咲く、桜?
笑いながら話しかけてくる様子、こんな風に誰かと会話するの、いつ以来だろう。

「桜って、あの、お花見とかじゃなくって、神話の世界のお話。それを読んでるうちに眠くなって。夢を見ていたんです……」

人の夢話は大抵つまらないというけれど、聞いてみれば、壮大なスケールの話だった。

本を読んで集中していると物語に入れ込んじゃうクセがあるんだとか。

やっぱり、なかなか変わってる。

感心していたら、彼女が聞いてきた。

「あの、変じゃないなら、なぜ私に話しかけてきたんですかぁ?」

なんて答えたらいいだろう……。

追加されたページ(5-1) (ID79772)

自分と同じような、はぐれ者を探しているとは言えなかった。
だから、私はなんとなく嘘をついたのだと思う。

「この学校の魔を……探っていたの」

「魔?」

「昨日まで当たり前にあったものが、ある日そっくり変わってしまう事があってね……」

「……何ですかぁ、それ」

「外見は同じ。だけど中身だけが全然昨日とは別物なの。例えば友達の顔をしているけど違うもの。
意味、わかる?」

私が物語のように語ったのはもちろん自分自身のこと。
友達と急に馴染めなくなって、気づいたら冷たくされていた、どこにでもあるような、話。

追加されたページ(5-2) (ID80226)

あの子はそんなことを疑いもしなかった。

「ほんと? 突然、そんなことが起きたら怖いよねぇ……」

どうやら信じているみたい。
複雑だけど嬉しかったな。
気を良くした私は話をさらに膨らませた。

「でもね、魔の正体がわかったの」

幼さが残る顔は途端に、きゅっと険しくなる。

「それはね……。月から始まったんだ」

「月から?」

「ほら、昔から満月の夜は事件が起きやすいとかあるでしょう? ああいう不思議な力を持っているのよ。
それは月自体が悪いんじゃないの。キレイなものっていい物も悪い物も引きよせてしまうでしょ?

月はそれを見上げる人の心を吸い上げるの。きれいな心は月の輝きになり、黒い気持ちは魔になるの」

「……人の心かぁ」
^ 「うん。やがて魔は遺子を持ち、大きな力を得るのよ」

私は得意げに話す。
思いつきの割には、なかなかいいアイディアだと思った。

追加されたページ(5-3) (ID80227)

「魔がここにいるわけですねぇ?」

「そう。この学校に潜んでいるの。気づかないうちに色んな人に近づいてね。
嫉妬や傲慢、渦巻いた負の塊みたいなものを、魂をそっくり入れ替えるのよ」

「わぁ。あたし、大丈夫かなぁ?」

「大丈夫。あなたは生き残りよ。だから声かけたんじゃない」

「そっか。よかったぁ」

ホッとしている。
本当に信じてるみたい。

「魔ってどんな形をしているんだろう?」

「元々、姿形が決まっているわけじゃないからなんでもよかったんだろうけど。
月を見る人々が思い浮かべる、わかりやすい象徴みたいなものに姿を変えてるのよ……」

「ヴァンパイヤとか?」

「そうそう、月と言えば定番だよね。あと狼男」

私も相槌を打った。

「やだー。狼男はちっちゃいのがいいな。そのほうがカワイイし」

「……まあ、ちっちゃいのも、いるかもね」

「とにかく、それらを、退治すればいいのね?」

急に使命感たっぷりな顔をした。

追加されたページ(5-4) (ID80228)

た、退治?

「しょうがないか。だって私に声かけたのは、そういうことなんでしょ?」

彼女に何があったんだろう。
なぜ、そんなにも何かをしょいこみたいのだろう。
びっくりしてしまった。

「私がこの学校に来たのも、そういうことなんだね……そうすれば私、きっと……」

その時、わかった。
どうやら、転校生だったみたいだ。
きっとまだ、うまく話すことができなくて。変わっている性格もあって、うまくいかなくて。
それで、自分の世界に入りがちになっちゃう子だったんだ。

「ねえ、あのさ……」

黙っていた。
いつもみたいな、張り詰めた表情をしている。

「あのさ」

やっぱり聞こえていないようだった。

……もしかして。

追加されたページ(6-1) (ID80230)

……私の話を聞きながら眠ってしまったんだと思う。

このまま立ち去っていいのか、近くにいたほうがいいのか……そんな気持ちのまま、こうしてノートにペンを走らせている私は、どっちの世界に属しているのかな。

目に映る風景は灰色のもやがかかっているみたいだ。
これはやっぱり、「魔」なのかもしれない。

あの子の手に、自分の手を重ねてみる。

……ねえ。そっちの世界は、どう?

追加されたページ(6-2) (ID81062)

張り詰めた顔で世界に入り込んでいる顔を見ると、夢の世界も大変に違いない。

でも、変だよね。

夢って楽しむためにある気がしない?
なんでそこでも頑張らなきゃいけないの?

誰かより目立ったり、役に立たなかったりしなくちゃ、私たちはいたらダメなのかな。

「一人じゃないよ。私はそばにいる」

それは、私が誰かに言ってほしかった言葉。

追加されたページ(6-3) (ID81063)

世界が大きな天秤だとしたら、厳しさの反対側には優しさもきっちり乗っているはず。

傷つける言葉がいつか自分に返ってくるように、優しい言葉も、いつか。

悲しいだけじゃない、柔らかくて温かいものはきっとあちこちにある。

だから、大事なことは、きちんと伝えなくちゃと思ったんだ。

追加されたページ(6-4) (ID81064)

あの子の強張った手を、ぎゅっと握った。

「もう、そんなところで頑張らなくていいんだよ」

魔なんていない。

それは世界を怖がりすぎる私たちの心が作ったものだ。
だから、私はもう一度呼びかける。

「戻ってきて」

重なり合った手から伝わる思い。

私からあの子へ。
あの子から私へ。

大丈夫。
ここにもあなたや私の望む優しさはあるよ。
絶対に。

さっきまで灰色だった光景はこんなにも鮮やかなのか、と思ったっけ。

……その時、ぐい、と手が握り返された。

追加されたページ(6-5) (ID81774)

「帰ってこれたぁ」

なんだかその声にホッとしたっけ。
私がかける言葉はもちろん。

「お帰りなさい」

その時、微笑んだあの子の顔。
暗い場所にさっと日が射すような……って、ああいう表情のことなんだろうな。

「声が聞こえてきたんです。……いろんな声。その中に、あなたの声もあったんだ」

大切なものを向こうの世界で見つけてきたみたい。

それからすっかり仲良くなった私たちだけど、忘れていた大事なことに気づいたのは少し後。

追加されたページ(6-6) (ID81775)

それは、「お帰りなさい」から始まる自己紹介。

あの子の名前はキリエ
幼く見えたけど、実は先輩だったみたい。

さんづけで呼ぼうか、先輩と呼ぼうか迷う私に「キリエでいいよ」といって照れくさそうに笑ったっけ。

キリエというのは、祈りの言葉でもあるらしい。

せっかく図書館にいるのだから調べてみなくちゃ。

……そのあとで久しぶりに部活に顔を出してみようかな。

追加されたページ(6-7) (ID81777)

これから、今考えていることなんかは、誰かに話していこうと思う。

前に本で読んだ、英雄の叙事詩や、冬の物語。それと、キリエが教えてくれたのは、桜の話、だっけ。

どこかで戦っていても、助けてくれるひとがいる。覚えてくれているひとがいる。

きっと、同じ。

もしも、これを読む誰かがいて。

その誰かが何かに絶望して暗い気持ちでいたとしても。

それでも温かいものは絶対にあることを伝えたかったんだ。

いつか誰かが気づいてくれるといいな。

最終ページ (ID81778)

記述はここで終わっている……

その日常に、安息を。

【Requiem:完】

最終ページ (順次公開されていた時点)

……

ページはここで途切れている……

時が満ちれば新たなページが読めるようになりそうだ



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Last-modified: 2011-06-23 (木) 21:49:58 (4688d)