困難なるレストラン
きらきらと輝く光に包まれて、(プレイヤー名)は、そっと目を開ける。
目の前には、森の中の小さなレストランと、目を輝かせて(プレイヤー名)を見つめる一人の少年。
「もしや、お客さん、ですか?」
(プレイヤー名)は首を振る。
「わかった!料理人?」
それも違うと首を振る。
「ウェイター?」
矢次に飛んでくる質問に、(プレイヤー名)は続けて首を横に振り続ける。
「となると、ここも終わりかなあ。僕の名前はエイム。父がなくなってから、このレストランの支配人ってわけだけど……。ちっともうまくいかなくて……」
話を聞けば、コックの経験も、支配人の経験もないという。
「そんなわけでね。まずはレシピ。店のウリってやつが必要なんだけど、知恵を貸してくれないかなあ」
(プレイヤー名)は考える。
過去に冒険した世界では様々な食べ物と出会ったことを。
それらを使えば……。
でも、うまくいくだろうか?
「あっ。なんだかいい考えが浮かんだみたいだね!よーし、早速行動だ」
エイムは大きくうなずいた。
どうやら、この少年、意外にのんきなタイプらしかった。
(プレイヤー名)とエイムがレストランの外に出た時、ショートカットの少女が笑顔で駆けてくるのが目に入る。
「エイムー!手伝いに来たよー!」
少女が持っている鞄からは絵の具入れや筆がのぞく。どうやら、画家らしい。
「彼女はリアン。友達なんだ」
隣からエイムが言う。
続けてエイムはリアンに(プレイヤー名)を紹介した。
「わあ、頼もしそうな人!私はエイムのレストランの内装担当。ヨロシクっ」
「へっへー、リアンは街では有名な絵描きなんだよ」
エイムが自分のことのように得意げに言うと、リアンが照れ臭そうに頭をかく。
「エイムのご両親には売れない頃、だいぶ後馳走してもらっちゃったからさ。だから、なるべく力になりたくって」
街で有名な画家が内装を手伝うとなれば、強力な宣伝になる。
集客も少しは見込めるに違いない。
「まあ、ここは多少、問題を抱えた場所にあるんだ……。内装だけでは、お客は増えないかもなー」
―――多少、問題を抱えた場所。
この森に一体何かあるのだろうか……?
�森守る者�と看板小妖
レシピ探しの途中、情報を整理する為に再度レストランのある森へと戻ってきた(プレイヤー名)達。
様々な世界で見たもの、感じたことを興奮冷めやらぬまま語るエイム。
そこに「新しい絵が完成したよー!」とリアンも加わり、「作戦会議」はいつの間にか小さなお茶会へとなっていた。
「あっ……お茶がなくなっちゃったみたい。ちょっと淹れてくるね!」
リアンが席を立ったところで(プレイヤー名)は、ふとエイムが以前言っていた「多少、問題を抱えた場所」という言葉を思い出し、問いかけてみた。
「あぁー……うん。この森には多少の問題があってね……」
「多少?違うわよ。問題だらけの場所でしょうが」
エイムの言葉を遮るように、乾いた声が後ろから響いた。
声の方を見れば、巨大な弓を背負った少女が腕を組んで立っていた。
「アメリア!……また、君か」
エイムは、少女を見てため息混じりに呟いた。
「いつまで危険区域で、しょーもないレストランを続けているの。出て行けっていったよね?」
「あのさー、これから頑張ろうとしているのに水を差さないでよね!文句いうだけなら誰でも出来るの!」
騒ぎを聞きつけて戻ってきたのだろう。
リアンがレストランの入り口からアメリアと呼ばれた少女をじろっと見て叫んだ。
一触即発。
そう思われた正にその時。茂みの奥からその場に似つかわしくない声が聞こえる。
「ラララ♪ 森の奥地に(奥地に)
ありました 見知らぬ穴が(デッカイ)
広がる恐怖はとんでもない置き土産
無知な男は 最初にいなくなります(いなくなります)」
歌いながら姿を見せたのは、全身にバラを絡ませた赤髪の少女だった。
不思議な事に、そのバラは少女の歌に合わせてパクパクとコーラスを始めた。
どう反応するのが正解なのか……。
あまりの衝撃に、その場にいた全員が言葉を無くしたかのように思われた。
「シルキィ!」
だが、アメリアは違った。
アメリアが叫ぶと、突如現れた少女はコクッと頭を下げた。
どうやら普通にしゃべる事は苦手なようだ。
「穴って……。急いでカイルーン様に伝えなきゃ。いい?エイム。あんた、本当にいい加減にしなきゃ大変なことになるよ?ここでは何かまずいことが起きようとしているんだから!
先程の歌から何かを感じ取ったのか、アメリアは口早にエイムへと告げる。
だが、エイムは強い眼差しで言った。
「ここは両親から受け継いだ大事な店だよ!退くわけにはいかないんだ!!」
その言葉にアメリアは、ふっと冷たいまなざしをエイムへと向ける。
「世の中にはね、あきらめなきゃいけないこともあるの。まあ、忠告はしたわよ」
そして今度はシルキィへと向き直り口を開く。
「いい?シルキィ。アンタは、もう一回その穴のとこに行って何が起きようとしているのか調査してきなさい。」
その言葉に、シルキィと呼ばれた少女は一瞬何か言いたげな表情を浮かべるが、結局口を開くことなく黙って俯いてしまう。
そんな彼女の気持ちを察したのか、アメリアは柔らかな口調でシルキィに告げる。
「カイルーン様への報告は私からしておく。だから、シルキィは森をお願い。」
シルキィは一度チラッとアメリアを見た後、コクッと頷いて了承の意をみせる。
そして、2人はそのまま森の奥へと姿を消した。
今のは一体……?
そんな想いが顔に出ていたのか、リアンが(プレイヤー名)に困り顔で説明を始める。
「アメリアは�森守る者�の一族なの。まったく面倒くさい性格してんのよ」
�森守る者�?
更に問いただそうとしたその時。
前方の草がゆさゆさと揺れる。
「なんだ?」
エイムが腰の銃に手をのばしながら前方の茂みを注意深く見守る。
すると、小さな生き物がピョコンと顔を出した。
「ン?ここにいるのかな?当主?当主?」
小さな生き物は叫ぶ。
エイムとリアンは不思議そうに顔を見合わせる。
「こんな生き物はみたことがない」と言った感じだ。
だが、(プレイヤー名)はその生き物に見覚えがあった。
小妖ツブテ。いたずら好きな妖怪だ。
「わああ、すっごい!可愛さバクハツって感じ」
リアンが駆けよると、妖は白い風のように彼女の足元をうろついた。
「くすぐったいよ」
リアンは笑い出す。
ツブテはしゅるしゅると風のように彼女の足下をうろつきながら、いたずらっぽく「ひひひ」と笑った。
(プレイヤー名)は、エイムたちにツブテの紹介をした後、何故ここにいるのかを尋ねる。
この妖怪はこことは別の物語の住人であるはずなのだが……
「当主の跡を追ったんだ、追ったんだぞ。だけと、いないようだから、どうしようかな、悩むぞ、悩む」
どうやらツブテ自身も理由を知らないらしい。これ以上聞いても仕方がないようだ。
リアンはツブテをふわりと抱きしめ、顔をすり寄せながら口を開く。
「じゃあさ、ツブテ。レストランにしばらくいなよー。ねえ、エイム」〜
「うんうん、かわいいし、いておくれよ」
エイムも二つ返事で賛成する。
「美味しいもの作ってくれるなら、いるよ、いてやるぞ」とツブテも小さな前足をシュッとあげて了承した。
そんなツブテの仕草に心打たれたのか、リアンはさらに顔をすりすりとして微笑んだ。
「かわいいっ」
「おいっ。あんまり頬をよせるなっ。こっちがくすぐったいぞ。くすぐったい」
「さー、エイム。私たちお留守番しているから、早く、レシピもってきて!」
リアンはすっかりツブテにご執心のようだ。
「おいっ、放せっ。おーい、放してくれよぉお」
「へへへ。やだよーだ」
エイムは騒いでいるリアンたちの様子を見て、呆れて小さく首を振った。
「行こう」
(プレイヤー名)と、エイムはレシピ探しの冒険を再開するのであった。
お留守番(05/06 0時公開)
エイムたちがレシピを探しに行った後、リアンはそっとツブテを見つめて笑った。
「ふふふふ」
ツブテの大きな瞳が不安そうに、大きく開かれた。
「オイラに何をする?何をするんだ?」
「ふふふー。不安な姿も可愛いなぁ」
いたずらっぽく笑うと、リアンは手ごろな板切れに何かを描きだした。
そして、「うん」と頷くとツブテの首に、その小さな板切れをかけた。
ツブテは不思議な顔をして、フンフンと板のニオイをかぐ。
「どう?気に入った?即席だけど私の力作。うーん、似合う似合う」
リアンはツブテを抱き上げると、その柔らかい毛に顔をうずめ、頬をすりすりした。
「これ、なんだ?なんなんだ?」
「これはねえ、あなた専用の看板。かければ、店がやってるかどうかわかるっていうスグレものよ。さあ、看板犬としてお願いね」
「オイラ、犬じゃないぞ、猫でもないぞ」
ツブテはプウッとむくれて言った。
「じゃあ、何?」
「ツブテはツブテだぞ」
「そうだったわね。看板ツブテだわね」
リアンはニッコリと微笑んで、もしゅもしゅと頭をなでる。
「わかればいいぞ……」
ふいにリアンの顔が曇る。
「ん?どうした?どうしたんだ?」
少し前までの明るい雰囲気とは随分違うリアンに、ツブテが心配そうに問いかける。
「あのさ……応援しちゃいけないかな?この店」
「すればいいさ。すればいいぞ」
「でもさ。もし、お客さんが危ない目にあったらと思うとね……」
リアンはそっと目をつむりツブテを机の上に降ろす。
ほうっとため息をついてから、ずっと心にあったのであろう不安を吐露し始める。
きっとエイムには言えない。だが、エイムがこの場にいない今だからこそ言える言葉。
「私は�森守る者�じゃないし……。絵描きの勘、ってやつだけど。森の空気の中に、ときどき、妙な違和感を感じるのよ。ここに来たお客さんの身に何かが起きてからじゃ遅いでしょ?でも、エイムの願いもかなえてあげたいしさ」
―― 妙な違和感。
確かにツブテは、この世界に来たときに「何か」を感じていた。
その「何か」を確かめるように、スンスンと森の臭いをかぎながらリアンに告げる。
「そうだな。妙な気はオイラも感じるぞ。でも、オイラは心配してないな、心配してないぞ!(プレイヤー名)がいるからな」
さも当然というようにツブテが言うので、リアンはこの1人と1匹の間になにがあったのか。
どうすれば、そう当たり前のように信じられるのか。
グルグルと考えていると、それは自然と口から出ていた。
「(プレイヤー名)とはどういう知り合いなの?」
リアンは不思議そうな顔で聞いた。
「とっても頼りになるやつなんだ。(プレイヤー名)
が入れば、悪い奴だってイチコロさ。だから、きっと店は何とかなると思うな。思うんだぞ。」
シュッシュッと前足を前方に打つ真似をしながらツブテが自慢げに言う。
いまいち質問の答えにはなっていないが、それでもリアンは満足したようだった。
もともと無意識に出た言葉だ。明確な答えを求めていた訳ではない。
「そっか、ツブテがそんなに言うなら安心だね。うん。わかった!」
リアンに再び笑顔が戻る。
ツブテは、えへん、と得意そうに胸を張った。
「あ、今のポーズいいね。そのままじっとしていて」
「ん?」
リアンは、さらさらとスケッチブックに何かを描く。
「何、描いてるのさ?描いてるんだ?」
「へっへ〜、秘密」
やがて出来た絵は、ツブテの特徴をとらえている上手な絵だった。
「わっ。なんでオイラの絵なんか!」
「私の部屋にかざるんだー。だって、ツブテ、どうせ一緒に寝てくれないでしょ?」
「ね、寝るわけないぞっ。寝ないぞっ」
ツブテはぼうっと真っ赤になって言った。
「だから、これを見ながら寝るのー。へへへ。やったー、かわいい絵」
リアンはスケッチブックを掲げながら、足をバタバタさせて喜ぶのだった。
「あっ!どうせだからレストランの内装も見直そう!エイム達がレシピを持って帰ってきたらお客さんいっぱいになるかもしれないもん。」
元気になったとたんヤル気にあふれた絵描きの少女は、再びツブテを腕の中に収めると「こうしてはいられない」とばかりに店の中へと歩き始める。
「うわっ。なんでオイラまで!」
「だってツブテもレストラン復興手伝ってくれるんでしょ?その看板はお客さんいいーーーっぱい連れて来てって願いをこめて作ったんだからね。人が集めればおいしいまかないだって出るんだから、頑張ってよ『看板ツブテ』!」
「うぅ……。どうせここじゃアテがないからな。しょうがないから力貸すよ。貸すぞ。」
どうやら、このレストランも完全に見放されている訳ではないようだ。
まずは、支配人が見せの売りになるレシピを集めるところから。
1つずつ前に進めば良い。
そう背中を押しするように森の花々の間を、柔らかな風が駆け抜けたのだった。
かみ合わない!?四人
レシピと共に様々な協力者を得ることが出来た。
これで安心、と思いきや、早速小さな争いは始まった。
「へぇ……どーも、変な連中だね」
ケインズがぼそりと呟いて、他の三人を見る。
「はぁ?誰が変わってるって?そこの、酒くさイカ金髪」
プチンと切れたマユキをジロリと見ながらケインズは再度口を開く。
「ちっ。うるせーな。懺悔でもしてろっての」
「ちょっとー、喧嘩やめようぜ?『売り言葉に川流れ』っていってさ……」
ヨイマルがなだめる。
しかし、マユキはヨイマルをじろりと見て、「売り言葉に買い言葉でしょ?」と冷ややかに言った。
さすがのヨイマルもムスッとして「性格悪いぞ」と呟いた、その時。
「レストランは、お客様に笑顔を提供する場所だよ?喧嘩はダメなんだよ?」
ミスティが一喝した。
それは穏やかだったが、どこかしらそれは緊張をはらんだ声だった。
「なっ……。わかってるわよ……」
マユキはプゥとむくれて言った。
「さーてと、俺はお宝でも見物するか」
ケインズはスタスタとワインセラーを見に行き、
ヨイマルは「腹減ったー」と言って机に突っ伏した。
協力者として呼んだものの、あまりにかみ合わないように見える面々。
力を合わせて危機を乗り越えることはできるのだろうか?
店の支配人であるエイムだけは、ニコニコと一行を見守っていた。
オオエドの甘味(マユキ)
(プレイヤー名)とエイムの二人が訪れた町はオオエド。
数年前に発見された�燃える水�の力で、人々の生活が急に加速しはじめたところだ。
エイムはきょろきょろと見回す。
「新しい時代がやってくるような、そんなワクワクした雰囲気がここにはあるね」
(プレイヤー名)はうなずく。
過去に悪の科学者から、この町を守った特務機巧隊のことを思い出す。
あの髪の長い少女は、今も、この覆えどで元気に活躍しているのだろうか。
「この街では、どんな料理レシピが手に入るの?」
エイムの問いに、以前世話になった『韋駄天屋』『梵天屋』という有名な甘味屋のお菓子がデザートに応用できるかもしれない事を簡単に伝える。
「なるほど!早く行こうよ」
エイムは目を輝かせて言うのだった。
(プレイヤー名)とエイムの2人が街の人に聞いて尋ねたところ、韋駄天屋は店の回想のため、暫くの間は休業中らしい。
頼みの綱は梵天屋である。
祈るような気持ちで店の前に来たものの、なんと梵天屋の主人が出てきて「産まれたーっ、産まれたーっ」などと叫んで、どこかへ行ってしまった。
ぼんやりと店の前に立っていると、どこからか懐かしい声がする。
「あれ……。(プレイヤー名)じゃない。どうしたの?」
[添付]
黒髪の美少女剣士が、こちらを見て微笑んでいる。
オオエドを救った特務機巧隊の一員、名はマユキ。
(プレイヤー名)がマユキに事情を説明すると
「ここの柏餅に目をつけるとはやるじゃない!でも、今日は無理ね。ここのご主人の奥さんが、お子さん産まれるみたいでさ……。私も食べたかったんだけどねえ」
なんてことだろう……。
これではレシピが手に入らない。
あきらめて帰ろうとエイムに呼びかけると、マユキが低い声で言った。
「あきらめるワケ?ありえないわよ、ここのお菓子を見逃すなんて」
そういわれても、店主がいない以上どうしようもない。
するとマユキはドンと胸を張った。
「運がいいわ。感謝しなさい。私がいたことにね!」
あれ……。
料理……出来ただろうか。コノヒト。
(プレイヤー名)はちらりとマユキを見る。
「失礼ね。他の料理はできないけど、自分の好きなものはうるさいのよっ。前、ここの泥棒を捕まえた時に、感謝のしるしって言ってお菓子作りの見学をさせてもらったんだから!」
マユキはスラスラと柏餅の作り方を説明しだした。
「すごーい
エイムは微笑むと、マユキは誇らしげに胸を張った。
ありがとう、とお礼を言って帰ろうとすると、ぐぐぐ、と力を込めて手を握られる。
―――なんという力だ。
「待ちなさいっての……任せられないわ。この作り方通りにやっても繊細な味は表現できないわ。ちゃーんと味見できる人がいないとね!」
味見できる人……。例えば私、といいたげな感じだ。
とはいえ、マユキは喧嘩小町という通り名がつくほど、気性が荒い。
連れて行くには少々不安が残るが……。
するとエイムはマユキの手を握って言う。
[添付]
「お姉さん、僕に力を貸してくださいっ」
「いいわよっ。任せなさい。オオエドも最近は平和だし、何かあってもサスケ達に任せればいいしね」
「さすが、頼りになるっ」
イムはぱちぱちと拍手した。
本当にマユキを連れて行くのか?とこっそり聞くと
「だって、あのお姉さん、力強そうだし。なんかの役に立ちそうじゃない?それに美人だしさ!」
(プレイヤー名)はエイムを見て、やれやれ、とため息をついた。
古き良き家庭料理(ヨイマル)
(プレイヤー名)とエイムはクルサワという村を訪れた。
過去にここを訪れた時は、懐かしい顔と新しい顔の2つに出迎えられた事を思い出す。
二人はやわらかな春風の中、長い坂道を登る。
すると、駄菓子屋が見つかった。
そこでは短髪の少年が朗らかな笑顔でアイスを食べて、ぶつぶつと呟いていた。
「うひー、ジャリジャリ君の、ゆず味。相変わらず、ぬかりない出来だぜ……」
ヨイマル。妖と話ができる力を持つ少年だ。
「おっ!(プレイヤー名)じゃないか!久しぶり。どうしたんだい?」
(プレイヤー名)は早速、彼に今までのいきさつを要件を話す。
実は今回はヨイマルの祖母、ハナヨに用があるのだ。
ヨイマルから、ハナヨは料理上手だと聞いたことがある。
和食ではあるが、うまく転用できるものもあるに違いない。
「うちのばーちゃんね!いいよいいよ!案内するからついてきてよ」
ヨイマルを先頭に、(プレイヤー名)は再びやわらかな春風の中を歩き始める。
「ばーちゃん!お客さんだよー」
ヨイマルが叫ぶ。しかし、返事がない。
不信に思いながら、居間へ向かうと、机の上に髪切れがおいてあった。
『ヨイマルへ。
おばあちゃん、フラの会のメンバーに誘われて、温泉に行くことにしました。
それで悪いけど、自分で料理つくってくれるかい?作り方は全部、ノートに書いてあります。
これからは男も料理作れないとダメだよ。頑張りなさい』
なんてことだ。まさかいないとは……。
手紙の下には小さなノートがある。
開いてみれば、ハナヨの料理レシピが書いてある。
「こ、これ、借りてもいいかな?」
エイムは目をきらきらさせて、ヨイマルを見た。
「おう、いいぜ!でも、俺、これがないと料理できないしなー……。」
ヨイマルが暫し考え込んだ後に、名案閃いたとばかりに口を開く。
「そうだ!よかったら俺もなんか手伝おうか?ここにいると……ヒメナとかが勉強しろってうるさいしさー。暫く学校も休みだし、たまには別のとこにいきたいかなーっつて。そのかわり、レストランの飯、食わせてくれよ」
「えーっ、いいの?人手は足りないくらいなんだ。マルちゃん、助けてくれたら嬉しいな」
エイムはヨイマルの手をぎゅっと握った。
[添付]
「おう、しかし……。マルちゃん。その呼ばれ方は、ぬかりなく初だぜ……」
ヨイマルは照れ臭そうに笑って言った。
舌を喜ばせる絶品(ミスティ)
(プレイヤー名)とエイムは広い草原にたどりついた。
[添付]
「気持ちいい風ー」
エイムは目を閉じ、風を感じている。
その姿に、かつてこの場所に立ち尽くしていた金髪の少女の影が重なる。
戦乱に巻き込まれた、その小さな身体を見て、(プレイヤー名)は何度守りたい思いに駆られただろう。
だが、その少女は特技の料理の腕前を生かし、道を切り開いていった。
彼女に会えれば、ヒントが得られるかもしれない。
エイムにそう説明しながら、二人は草原を進むのだった。
もう少しで草原が終わる。
ここを抜ければミスティの住むノエルタウンだ。
疲れた足に、もう少し気合を入れようと歩く。
その時、風にのってふわりと甘いバターのような香りが鼻腔をくすぐる。
この香りは覚えている。これはバタルキと呼ばれる葉をフライパンであぶった匂いだ。
それにつられてか(プレイヤー名)のお腹が急激に鳴った。
「なんだか、いいニオイがしてこない?……おなかすいたよー」
エイムは甘い香りに誘われて、草原の中をふらふらと歩く。
旅人が急いで追いかけると、おおきなフライパンが見えた。
「あれ?(プレイヤー名)!久しぶりだね
フライパンを振っている女性がこちらを見る。
[添付]
(プレイヤー名)はあまりの衝撃に暫し立ち尽くす。
かつてのあどけなさは見られないが、どことなく面影を残した美しい女性に成長した少女の姿がそこにあった。
どうやら次元のゆがみで、少し先の世界に来てしまったようだ……。
「どうしたの?ミスティだよ」
ミスティは柔らかく微笑んだ。
ぐうう、とお腹を鳴らしたエイムにミスティが更に笑みを深くして言う。
「ちょうど良かった。春の新作オムレツの試作をしていたんだ。パステルマッシュが中に入っているんだよ。よかったらキミ、食べてくれないかな?」
「いいんですか?お姉さん」
「お姉さんじゃなくて、ミスティだよ。さっ、召し上がれ」
食べながら(プレイヤー名)はここに来た経緯を説明すると,
「いいよ、 (プレイヤー名)にはたくさん助けられたしね。協力させてほしいよ」と言った。
[添付]
「助かるよー。ミスティさん」
「レシピは、私の頭の中にあるからさ。ついていくよ!それにいろいろな世界の料理が集まるなら、勉強になりそうだしね」
ミスティは柔らかな笑顔で微笑んだ。
喉越しの良い聖水(ケインズ)
(プレイヤー名)とエイムは雪の街を訪れる。
[添付]
「すっごい雪だね!寒いところの食材は脂が乗ってていいよね。有名な一品とかあるの?」
確か、この地にご執心の女悪魔は料理が上手だったはずだ。
彼女ならなんとかしてくれるかもしれない。
しかし、悪魔の料理と聞いて不安に思ったりはしないだろうか……。
「悪魔のレシピ?何それ、すっごい興味ある。良い看板メニューができるかも」
この少年、案外たくましいようだ。
(プレイヤー名)は、ひとまず胸をなで下ろすと再び過去に思いを馳せる。
また「世紀の決戦」を繰り広げていないと良いが……。
様々な期待を胸に白銀に覆われた聖道をゆっくりと歩き出す。
目的地まであと少し、。。という時にふと聞こえた懐かしい声。
「おい、何してんだよ。(プレイヤー名)」
金髪眼鏡の男がイカを噛みながら、泡立つ聖水をぐびぐびと飲んでいる。
[添付]
旅人はこの男を知っている。
彼の名前はケインズ。
悪魔を祓う力はあるが、正直、今回は役に立たなそうだ。
サッと挨拶をして、メフィスの居場所を聞くと、ケインズは眉をキュッとあげた。
「さーな。ここ最近姿みせねーんだよ」
なるほど……メフィスがいないならば用は無い。
帰ろうとすると、服を掴まれた。
「ちょっと待てって。付き合い悪いな、お前はよ。そのボーヤはなんだ。いるか?」
ポケットの中から丸まったイカを出すケインズ。正直、汚らしい。
だが、エイムはサッと受け取ると、イカを口に放り込む。
「これ、なに?おいしいっ。旨みが、旨みが深いよっ」
「おっ……。オマエ、話がわかるなーっ。こいつも飲むか?俺特製の聖水だ」
ケインズは金色の泡だった聖水を見せる。
瞬間。
(プレイヤー名)は聖水ごとケインズの右手をつかむ。
(暗転)
「この聖水、手作りなの?」
泡を吹いているケインズを気にも留めずエイムは冷静に言った。
「まーな……」
「ねえ、この人にも協力してもらおうよ」
エイムはケインズにレストランの事情を説明した。
「なるほど、聖水の作り方か。いいぜ、教えてやるよ……」
ありがとう、と(プレイヤー名)がお礼を言うと、ケインズはにやりと笑って言った。
「だけど、お前ら、従業員たりねーんだろ?レストランといえば酒はつきものだ。いいワインを選べるソムリエもいねーとなあ。あれ?……俺、職業柄酒には詳しい方だったな、確か……」
酒が飲みたいだけじゃないか、と思ったが、エイムは笑顔で言った。
[添付]
「じゃあ、酔っ払いのおじさん!手伝ってよ」
「お、おじ……さん」
ケインズは笑顔を固まらせながら、うなずいたのだった。
『ここは両親から受け継いだ大事な店だよ!退くわけには行かないんだ!!』
また同じ事の繰り返しだ。
正直意味が分からない。
何故あの少年は、この森の危険を知りながらも一行に立ち退こうとしないのか。
レストランを復興したいのであれば、こんな人も立ち寄らないような場所ではなく
放っておいても人が集まる街に出て新たな店を構える方がよっぽど楽に決まってる。
―――ただでさえこの森には……。
と、そこで私の思考は一時中断する。
月明かりの下。
美しい女性が焚き火のそばで座禅を組んで瞑想しているのが目に入ったからだ。
―――お声をかけたら邪魔になってしまうだろうか……?
だが、そんな気遣いも杞憂に終わる。
周りからは獰猛な息遣いが聞こえる。
さらに、茂みにはいくつもの金色の目が見える。
そしてソレらは、ゆっくりと茂みから出てくると、だらしなく長い舌を垂らした。
数匹の黒狼達が、茂みの中で潜んでいたのである。
姿を現した黒狼達は。瞑想中の彼女をグルリと取り囲むと低い唸り声を上げる。
―――さて…どうしたものか……。
思案したのは一瞬だった。
―――しゃーない。邪魔にならないように下がってるか。
そう判断して、視線は外さぬまま足音を立てぬように身長に後ろへ散歩下がる。
すると、彼女は静かに薄目を開けた。
そして、小さく微笑むと静かに言う。
「下がりなさい」
その途端、空気に断裂が起きたような感覚に陥る。
それなりに距離を取っている私ですらコレだ。
近くにいる黒狼たちはもっと強い衝撃を受けたに違いない。
案の定。黒狼たちは、今しがたまで獲物として見ていたモノに�強さ�を感じると、クゥウン、と鳴いて、再び闇の中へ姿を消した。
静かになった闇を感じながら、再び彼女は目をつむる。
―――やれやれ…気付いているんだろうに意地が悪い。
今度は足音を立てて彼女の目の前まで近づくと、私は口を開いた。
「カイルーン様」
すると、彼女―――カイルーン様は優しく目を開く。
[添付]
私は静かに頭を垂れて、跪く。
カイルーン様は穏やかなお方だが、私が所属する「森守る者」の長なのだ。
「アメリア。どうしました?」
「シルキィが不思議な穴を森の奥地で見つけたようです」
「不思議な穴?」
「はい。今シルキィが調査しているところです。」
そうですか……」
そう言ったきりカイルーン様は何事かを悩んでおられるようだった。
だが、私はもう1つ報告しなければならない事がある。
「カイルーン様……。」
―――正直報告し辛い……。良い知らせでもないし……。
しかし、カイルーン様はただ私を優しい目で見つめて続きを促す。
「なんども忠告しているんですが……。例の少年、未だにこの森から出て行かないようです」
その優しい目に勇気づけるように私は口を開いた。
カイルーン様はさして気にした様子もなく「困りましたね……」と目を伏せた。
そして、暫くするとすくっと立ちあがった。
長い髪をふわりと揺らし、腰の二刀をゆっくりと抜くと、月の輝きにさらす。
剣は青い光を放ちながら、きぃいいんと鳴くような音を立てた。
「アメリア。剣が共鳴しています。これは、森に大きな異変が起きる兆し」
カイルーン様の言葉に、私は小さくうなずく。
「彼の想いも理解できますが……。人の意思よりも強大なものがあることは、教えなくてはなりません。大事が起きる前に……」
「はい、必ず」
カイルーン様が感じた異変は絶対。
それに逆らえば、大変なことが起きるに決まっている。
これは早く任務を遂行しなくてはならない。
決意新たに私は深くうなずくのだった。
山間にあるクルサワ村もすっかり春だ。
アスファルトの脇にある草むらでは、青い草と黄色い花がリズムを取るように揺れている。
絵に描いたようなのどかな風景を、人の目には見えない�何か�がつむじ風のように疾走していた。
�見える人間�が見れば、犬や猫のような柔らかい毛に覆われた小動物のようだと言うのかもしれないが、立派な妖である。
名をツブテと言う。
ツブテは、昼寝しているときに見た恐ろしい夢から逃れるように必死に草むらを駈ける。
ツブテが見たのは、妖の当主・クウカの存在を誰も覚えていないという夢だった。
ミーシアも、ヒメナも、ヨイマルですら、誰も彼女のことを覚えていない。
ツブテがクウカの話をしても、「誰だよ、そりゃ」と口々に言う。
「思い出せよ、思い出せったら」
ツブテがばたばたと騒いでも、揃って眉をひそめるだけだった。
石段を登りm立ち並ぶ鳥居の九本目の脇道から、抜け道へ。
最大限の速度でクウカが守る妖稲荷の本殿へと急いだ。
「当主、当主、当主、当主ー!」
いつもならここで「なんじゃ?ツブテ。神聖な場所で騒ぐでない!」とクウカの怒声が響くはずなのに、その気配は無い。
更に、クウカの姿も見当たらない。
ヨイマルの家に行っているのだろうか?
いや。この時間は、全国の妖たちの相談に乗るために妖稲荷を離れるはずがない。
キョトキョトと周囲を見回すと、鳥居の前に不自然な影を見つける。
しかし、よくよく見ればそれは影ではなかった。
地面を削り取ったような大きな穴ぼこがあいている。
ジッと穴の底を見つめたが、どれほど深いかもわからない。
穴に顔を近づけると、うっすら立ちのぼる妖気の流れを感じた。
それは、探し求めているクウカのもの。
ツブテは理解し、叫んだ。
「当主、この穴の底にいるんだな。いるんだろ?」
穴に向かって呼びかけると、突如、目に見えない強い力に引っ張られる。
キュウと、四本の足で踏ん張ってはみたものの、たちまち穴に吸い込まれてしまう。
暗い穴の中をくるくると回りながら、ツブテは考える。
―――どこだ?どこにいくんだ?
何度問いかけても答えはなく、やがてスポンと草の上に落とされた。
ツブテはきょろきょろと周囲を見渡した。
森のようだが、クルサワとは違う。
今度は匂いを嗅いでみる。
やはりクルサワとは違うことだけは分かった。
いつまでもこんな得体の知れない場所にいる訳にもいかない。
とりあえず、近くにあった小道をおそるおそる歩くうちに声のようなものが聞こえた。
声の方角には建物が見える。
「ここにいるのかな?当主?当主?」
ツブテは首をだして、くるくるとあたりを見回したのだった。
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